2023広島国際芸術交流展:名筆からみる筆墨精神

本展は下記三つのカテゴリに分けられていて、それぞれの観賞ポイントを紹介します。

  1. 日本出品作品

全体の半数を占めており、当グループや全国からの応募作品からなります。

これらの作品ジャンルは主に書作品で、作風スタイルは甲骨文字から現代、仮名,筆法から墨法,臨書から創作、内容から構成、書の表現の多様性、伝統書道に対する「守・破・離」を探求する姿がうかがわれます。

  • 海外出品作品
  • 國際交流の目的で、主に中国から寄せられた作品からなります。これらの作品をみれば,内容から構成、書体から様式,何となく伝統的なものが多く、ひとことで言うと:おおらかで燦めく大陸らしいイメージで、所謂:「唐様(からよう)」と言えます。
  • 「古今文人・名士墨跡展」

黄檗三筆から呉昌碩、頼山陽から鉄斎、そして良寛

今回の企画特別展示でもあり、本展のメイン、見どころとも言えましょう。

先ずは文人たちの墨跡。文人は、儒学、文学の教養を備えた非専門職の知識人で自娯のために、余技として制作した書画作品を残しています。

文人書画が日本での本格的な興隆は、室町時代からです。明との貿易が盛んに起こり、大陸から大量の文化や書籍が舶来し、とくに明末清の初期に、隠元を代表とする黄檗宗諸僧の渡来により伝播しました。彼らは江戸初期に中国から渡来し禅宗の教えと共に土木建築や木版印刷、書画、篆刻の技法、医薬、音楽、煎茶やスイカ、たけのこ(孟宗竹)、レンコンなど幅広い文化をもたらしました。当時の元禄文化に多大な影響を与え、それまでの御家流(みえりゅう)の「和様」に唐様(からよう)をもたらして、隠元、木庵、即非の三人は書画とも優れて、「黄檗三筆」と呼ばれています。また、明人の書は非常に多彩な様相を呈し、行草書の表現はとくに自由奔放です。

もう一人、隠元の弟子独立性(どくりゅうしょう)(えき)という黄檗禅僧は医者として長崎から岩国に招かれ、当時の岩国藩主吉川広嘉にヒントを与え、錦帯橋の創立に繋がったということで、岩国市に記念碑が建てられています。また独立性易は篆刻(書画作品に押す落款)も上手で、当時の日本の知識人に篆刻を教え広めたので、「日本篆刻の祖」とされています。

近代になると、日本人に最も親しまれた中国近代の大文人はやはり呉昌碩(1844~1927)です。中国最後の文人と言われ清朝末期に活躍して「詩、書、画、印」を全うした大芸術家で、日本では日下部鳴鶴、河井荃盧、長尾雨山が交友しており、日本篆刻界にも大きな影響を与えました。

一方、日本近代文人画の巨匠―富岡鉄斎の作品も展示しており、奔放な筆致と豊かな色彩で描かれた、のどかな漁村風景に独特な書賛を入れた作品は、近代の日本美術史において傑出した存在感を放っています。

最後に、もう一人聖僧と言われる良寛さんの書は圧巻です。唐、草書の大家ー懐素の書風に、彼の貧しい清らかな生涯と生き方、厳しい修行と精神が表われています。のびやかで微笑みと愛に満ちた線の美は多くの人に感銘を与え、自然の中に生きた良寛の書は日本美の極致とまで絶賛されていて、今に伝わっています。

本展は400年にわたる優れた古今の墨跡、芸術作品を一堂に集めて展示しています。不安の時代を生きる私たちにとって、心の免疫力なり、これからの生き方にも、大きな指針と癒しを与えてくれることでしょう。

※展示中の名筆名品は関係団体、美術館および美術商と個人所蔵、ご好意ご協力による貸出品です。