アロマ系の香り体験に詩的な雰囲気を与える行為的メタファを用いた道具群のデザイン研究

京都芸術大学

芸術環境専攻

情報デザイン・プロダクトデザイン領域 

プロダクトデザイン分野

葉 晟

指導教員:上林 壮一郎

研究概要

 アロマ系の香りを楽しむことは、エッセンシャルオイルやアロマキャンドル、香水といった製品を通じて、長い歴史の中で世界中で親しまれてきた。これら香り体験の方法は、揮発、塗布、散布といった機能的な拡散方法が主流となっている。

しかし、従来の香り製品は視覚的・触覚的な体験が乏しく、香りを受動的に嗅ぐだけの体験に留まることが多い。そのため、持続的な愛用や愛着を生むには限界がある。香りの体験には、必ず行為が伴う。そこで注目されるのが、「行為的メタファ」というデザイン手法である。特定の行為や動作を象徴的・比喩的に取り入れることで、使用者に物理的操作を超えた感覚や意味を付与するデザイン手法である。

そこで本研究では、「行為的メタファを用いた香り体験道具はどのようにデザイン提案できるのか?また、それは従来の香り製品と比較してどのような新たな価値や特徴を持つのか」というリサーチクエスチョンを設定し、研究を行った。この問いに答えるために、行為的メタファを活用した3つの提案デザインを制作し、課題の解明を試みた。

提案デザイン

・香りを「書く」

-「書く」行為を取り入れたアロマ体験道具-

 香りを「書く」という行為を通じて、嗅覚体験に新たな意味をもたらすこのデザイン。アロマオイルをインクとして用いることで、ユーザーは自身の思考や感情を香りの形として表現できる。筆を取る瞬間、まるで書家や画家のように香りを視覚化し、ディフューザー台に描き出す。この行為は、抽象的な香りを具体的な「かたち」へと変換し、時間とともに香りが消えていく儚さや一瞬の美しさを体感させる。さらに、嗅覚・視覚・触覚を融合させることで、香り体験に詩的で情緒的な価値を加える。受動的に香りを嗅ぐのではなく、能動的に創作することで、香りとの対話が生まれ、唯一無二の個人的な体験へと昇華する。

・香りを「捕まえる」

-「捕まえる」行為を取り入れたアロマキャンドルカバー & スタンド-

 アロマキャンドルに火を灯すと、揺らめく炎とともに香りが空中に溶け込み、心地よい余韻を生み出す。その終わりを迎える瞬間、静寂を壊さないように火を吹き消すのではなく、そっと「網」を被せ、香りを閉じ込む。この「捕まえる」動作は、幼い頃に虫を捕まえた時のような懐かしさとともに、次に香りと出会う期待感を胸に宿す。このデザインは、香りの終わりをただ感じるのでは

なく、香りとの対話を楽しむ新しい体験を提供する。

・香りを「味わう」

-ワインテイスティングの行為を応用したアロマゴブレット-

 繊細な香りが器に抱かれ、形状の異なるゴブレットを通じてその豊かな表情を解き放つ。細長い器は香りを一筋の光のように鋭く際立たせ、丸みを帯びた器は香りを柔らかな風のように優しく包み込む。手に取った瞬間、香りの密度と広がりが変化し、嗅覚とともに視覚的な美と形状が織りなす調和を感じることができる。

 香りを「味わう」という新たな体験へと誘うアロマゴブレットは、香りを単なる嗅覚刺激から、視覚と嗅覚が融合した詩的な体験へと昇華させる。香りを嗅ぐたび、器が紡ぐ物語に引き込まれ、そのひとときを特別な感覚の旅へと変えていく。