2026年10月1日から4日まで、K:art Studio及び石西京アート事務所の共同主催、Forrest Lin Wuキュレーションによる国際グループ展『DWELLING』が、京都文化博物館にて開催された。本展には多様な文化背景を持つ60名以上のアーティストが参加し、絵画、映像、デジタルアートなど複数のメディアを通じ、「栖居」をめぐる多元的な解釈を提示した。

人の移住が日常化し、都市景観が絶えず変化し、人と環境の関係が再構築され続ける現代において、本展は一見普遍的でありながら、ますます複雑化する問いを投げかける。すべてが流動し変化する時代の中で、私たちはいかに「栖居」を理解すべきか。
語源から読み解く:栖居は静止した到達ではない
「DWELLING」は一般的に居住、住まい、拠点と訳される。だがその語源は古英語の「dwellan」に遡り、本来は空間の占有ではなく、「留まる」「さすらう」「時を過ごす」といった動的な意味を持つ。この語義の転換こそ、本展『DWELLING』のキュレーション原点となっている。
現代社会では、「居住」は安定、帰属、所有権と強く結びついている。人々は住まいを構え、境界を定め、物を蓄えることで、世界との関係を確認してきた。しかしグローバル化が加速し、国境を越えた移住が常態化し、都市と自然環境が次々と変容する今、固定された空間に基づく帰属意識は揺らぎつつある。

この状況を踏まえ、キュレーターForrest Lin Wuは「栖居」を単なる空間状態から、時間と関係性の次元へと再定義する。栖居とは一箇所に定着することではなく、変化し続ける現実の中で、自らの位置を探し、つながりを築き、世界を再理解し続けるプロセスである。
出展アーティストたちは個人の記憶、精神的信仰、社会構造、生態環境など多角的な視点から制作を展開し、「栖居」を個人の体験と現代社会の状況をつなぐ開かれたテーマへと昇華させている。
家のかたち:空間が消えた時に残るもの
Lin Tianの映像作品『The Shape of Home』は、「家」を視覚的に解体し、帰属の本質に迫る。作品はアーティスト自身の度重なる転居と、未知の環境への適応体験を基に制作された。

映像は無人の室内空間から始まる。布団、書籍、デスクランプといった日常的な道具が、人々がイメージする「家」の姿を形作っている。だが映像が逆再生するにつれ、家具、壁、空間の境界が次々と消去され、やがて物理的な空間は完全に解体され、人と原初の土地だけが残る。
この視覚的な減法により、作品は物理的な住空間の描写を超え、根本的な問いを提示する。家を定義する物質的な要素がすべて失われた時、「家」は存在し続けるのか。帰属を支えるのは建物や設備ではなく、そこで積み重ねた記憶、感情、人とのつながりではないのか。

本作は答えを提示するのではなく、空間の消失を通じ、物理的な建物では収まらない居住体験の本質を可視化する。家とは固定された場所ではなく、人の移住と記憶、生活の積み重ねによって常に生成され続ける存在なのだ。
精神の拠り所:不確かな世界で守る自由と夢
物理的な空間の解体を問う作品に対し、Angel Wagnerの油絵『The Unicorn Rests In The Community Garden』は、栖居の意味を精神的な次元へと拡げる。
Wagnerの創作は長年、女性の力、肯定、自己肯定をテーマに展開されてきた。本作は米ミネアポリスの都市状況を背景に、社会が変動する中で個人がいかに精神世界を守り続けるかを象徴的に描く。
本作の語る「栖居」は、単なる住まいの確保を超える。不安定な外部環境の中で、夢や自由、人とのつながりを守り続けることこそ、真の拠り所である。ユニコーンとコミュニティガーデンのイメージは、現実の空間と精神的な癒しが重なり合う様を表し、希望と連帯のメタファーとなっている。
栖居とは安全な場所を探すことではなく、人生の意味を与えるものを自ら守り抜くこと。外部世界が変化し続けても、信念、感情、共同体の関係を通じ、物理的な空間に依存しない帰属を自ら築くことができる。
再定義される自然:人と環境の相互関係
個人の体験と精神世界に焦点を当てた作品に続き、Chih-Fen Tsaiのデジタルイラスト『Luscious Sites-2』は、栖居の議論を生態と社会の大局的な視点へと拡張する。
アーティストは「異化」を視覚的な手法として用い、身近な環境要素を再構成することで、人と自然の関係に対する固定観念を打ち破る。

経済発展とグローバル化により、自然景観はもはや人間活動と切り離された純粋な荒野ではない。都市インフラ、社会システム、文化シンボルと生態系が複雑に絡み合い、絶えず変化する混合的な景観を生み出している。
『Luscious Sites-2』はこの複雑な関係を視覚的に表現している。環境は人間の生活の背景ではなく、人の行動、自然の力、社会構造が相互に作用し合う動的なシステムである。人は環境を変えると同時に、環境から常に影響を受け続ける。
この視点により、本展のテーマは個人の帰属体験を超え、生態共存、空間生産、環境変容といった現代社会の課題へと深くつながっていく。
個人から都市へ:多層的な栖居のかたち
本展の各作品は、それぞれ異なる角度から「栖居」の可能性を拡げている。
Aria Artis『The Breath of Space』は、曲線、層、浮遊する円形によって流動的な空間を構築。空間を境界のある容器と捉えず、無形の関係と張力によって維持される場として表現し、栖居の可能性が「固定された空間」ではなく「絶えず生まれるつながり」に存在することを示唆する。
Joanna Gołdowska『Musings』は、呼吸と沈黙の間にある言葉にできない繊細な意識状態を描く。栖居とは外部空間を確認することではなく、自らの存在と知覚を深く見つめる内省的な体験である。
Hollyana Melear『Birth and Death of Austin』は、視点を個人から都市全体へと移す。聖画風の構図を用い、米オースティン都市の20年間にわたる建物の誕生と消滅、都市更新の変化を一枚の画面に凝縮。都市が絶えず書き換えられる時代に、人の都市への帰属と記憶の継続を問いかけ、「安居」が常に一時的なものであることを提示する。
Kaellys『Kitsune Gateway』は、二重露光と象徴的なイメージにより、現実と超現実が重なる空間を創出する。逆さの水面と日本の伝統的な狐面は、現世と異界をつなぐ境界となり、栖居が単一の現実空間に閉じられないこと、知覚と文化想像の間を往来する体験であることを表す。この境界の曖昧さは、歴史、日常、文化記憶が共存する京都の街の特性とも呼応している。
媒体や表現、文化背景が異なるこれらの作品は、すべて「固定された境界」への再検討を共通の核心とする。身体と意識、私的空間と公共環境、現実と想像——栖居はいかなる単純な関係にも収まらない。
未完了のプロセスとしての栖居
空間の消滅する部屋、守り続ける精神の庭、グローバル化によって変わる自然、更新と喪失を繰り返す都市。『DWELLING』は60名を超えるアーティストの表現を通じ、現代における栖居の多様な姿を描き出す。
本展の意義は、「家」や「帰属」に唯一の答えを定めること。
展覧会名:DWELLING|ドウェリング
会期:2026年10月1日~10月4日
会場:京都文化博物館(The Museum of Kyoto)
キュレーター:Forrest Lin Wu
主催:K:art Studio、石西京アート事務所
出展アーティスト(アルファベット順):
Alexia KTD, Andrea Ehret, Ang Wu, Angel Wagner, Anna De Jesús Lugo, Anna Novakov, Aria Artis, Belinha Silva, Bianca Turner, BLACKWBLONDE, Chih-Fen Tsai, Chuanqi Hu, David Russell, Dorothea Ney, Dorothée Zombronner, Dragan Marković Markus, Emma Coyle, Esther Wiederhold, Fia Metta, Forrest Lin Wu, Gabrielė Kuizinaitė, Gaojie Chen, Guo Cheng, Hariclia Michailidou, Hollyana Melear, Jennie L., Joanna Gołdowska, Kaellys, Keren He, Kerrigan Reyes, Kexin Zhang, Krisztina Lazar, Lea Laboy, Lena Goral, Liba Waring Stambollion, Lin Tian, Luca Ripamonti, Luciano Caggianello, Marc D. Lariviere, Marianna Grant, Matthew Morpheus, Maura Glines, Megumi Ohata, Meici Zhao, Michell Osman, Nancy Mercado, Olivia O’Callaghan, Paris Kyrtatas, Ruocheng Zhou, séraphine, Shaoming Quan, Shayne Brantley, Tingwei Chang, Uzomah Ugwu, Vanessa Wenwieser, Victoria Yuanli Yuan, Xi Huang, Xingxuan Wang, Yucen Liu, Yuange Sheng, Yuliya Greben, Zsuzsanna Ursprung
後援・協力:
京都府、公益財団法人京都市国際交流協会、KBS京都、京都新聞、關西華文時報、Goddessarts Magazine、JULIET Magazine、Artron、The Big Draw
【展覧情報】
『DWELLING|ドウェリング』
会期:2026年10月1日~4日
会場:京都文化博物館
キュレーター:Forrest Lin Wu
主催:K:art Studio・石西京アート事務所
後援:京都府、公益財団法人京都市国際交流協会、KBS京都、京都新聞 ほか